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生前の物語~Epic of Ala Mhigo~【一章】①




――第六星歴1537年――


高い山々に囲まれた小さな村。

近づけばその雄大さが際立つほどの連峰に囲まれた、のどかな村だった。

そこの空は突き抜けるほど蒼く、手を伸ばせば届きそうなほど雲が近い。

整備されてない道がいくつか伸びていたが、その道を行く者は少ない。

標高が高いせいか、背の高い木々はほとんどないところだった。

質素な石造りの小屋が十数軒。

牧場では土から出てきたばかりの薄緑色のした芝生をアンテロープが食んでいた。

小さな小川にどこからか運ばれてきた黄色い花が流れている。

新緑の季節を迎えていた。




春の陽気に誘われて、などという気分にはなれなかった。

赤い花束を抱え、特になにも考えずに道を急ぐ。

陽は既に高くまで登っていた。

暖かい日差しが真上から差すこの時間は嫌いではなかった。

風が少し強かったが、別段寒いと感じることはない。

生暖かい風が腕に抱える花を揺らした。

水気を含んだ匂いがする。

きっと夕方には雨が降るのだろう。

漠然とそう感じながら、長くもない道を急いだ。





二日前の晩、母が死んだ。

元々身体が丈夫な方ではなかったのだが、それまで元気に過ごしていたのが噓のように衰弱していった。

三晩も苦しそうに喘ぎながら、粗末な堅い寝床の上で滝のような汗をかいていた。

水を、水を、と言うので渡すのだが、その器さえ持つこともできない状態だった。

背に手を当てて身体を起こし、水の入った器を口元へやる。

やっとのことですすった水だが、舌を湿らすほどしか口に含めていない。

朝に摘んできた綿花に水を含ませ、口に入れてやる。

水を飲む、ということすらままならないほど、母は衰弱しきっていた。

「水を・・・。」

母が消え入りそうな声で呼ぶ。

正直、そんな母の声は聞きたくなかった。

あの大らかで、逞しかった母の姿はそこにはない。

枝のように細くなった腕。

見るからにやつれた頬。

あんなに美しかった青い瞳は光を失ってしまっていた。

見ていられなかった。

ゆっくりと寝床へ近づき、母の手を握る。

少し力を込めれば、折れてしまいそうだった。

とても冷たい。

再び綿花を湿らせて、母の口元へやる。


「わたしは、もう、長くありません・・・。」

はい。と返事をしようととしたが、何かが喉につっかえて声が出なかった。

「まだ、幼いあなたを、残して逝くのは、とても・・・申し訳なく、思います・・・。」

息も絶え絶えだった。

こうして話しているのも、相当な体力を使うはずだ。

お願いだから喋らないでくれ、と思ったが、耳を傾けるしかできなかった。

とても大切な事を言おうとしていると分かったからだ。

「いいですか・・・。良くお聞きなさい・・・。三日後、僧侶様が、あなたを迎えに、来ます・・・。その方の、いう事をよく聞いて・・・。村を出なさい・・・。」

なんとはなしに、そんな気はしていた。

どこかに預けられる事にも、村を出なければならない事にも、不安や寂しさはなかった。

母が居なくなってしまう方がとてつもなく怖かった。

「顔を・・・。よく、見せておくれ・・・。」

横から母の顔を覗き込むように、自分の顔を近づけた。

今自分は、どんな顔をしているのだろう。

ただ悲しみだけが心を支配していて、感情も、思考も、まとまらない。

そんな自分をよそに、母はこれまでと違い、はっきりとした強い口調で続ける。

「あぁ、あなたの瞳は、いつも綺麗ですね・・・。わたしはあなたの紅い瞳が、とても好きです。逞しく、強い人になりなさい。僧侶様と共に行けば、きっと、強く逞しくなれるでしょう。辛い事もたくさん、あるでしょう。それでも挫けず、立派に生きていくのです。ただ、ひとつだけ、約束して、ください・・・。どうか・・・誰かの物や、誰かの命を奪うような、そんな人には、ならないで・・・。」






狭い墓地の一画、小さな石の積まれた場所に抱えていた花を供えた。

名前を刻んだ立派な墓など、高価でとても手が付けられなかった。

質素な生活をしてきた自覚はあった。

そしてそれを辛いとも思わなかった。

少なくとも、自分は母と共に過ごせれば、それだけで幸せだった。

しかし、今になって思うこともあった。

自分に愛情を注いでくれた母のために、このぐらいしか出来ることがないのかと。

血の繋がった息子ではなかった。

種族も違った。

瞳の色も、髪の色も、肌の色も何もかもが違った。

それでも、母は自分に生きる術と、精一杯の愛情を注いでくれた。

その偉大な母に対して、自分はこれっぽっちしかしてあげられないのか。

口惜しさが込み上げてきて、胸を貫き、頬を濡らした。

しゃくり上げそうになるのを、歯を食いしばって耐えた。

声を出さないよう必死だった。

人は死ぬと、魂がエーテルに還るという。

エーテルとはこの世界中のどこにでもある、命の源、魂の源泉。

母はそこに還った。

今も、これからも、母は自分を見てくれている。

みっともない姿は見せたくなかった。




「おい、そこの君!」

背後から男の呼ぶ声がした。

慌てて涙を拭い振り返ると、見慣れない服装の男が数人、こちらを見ていた。

何か用か、と返事を返す。

声が上ずってしまわないように努めたつもりだった。

が、出てきた声はまるで絞り出したような奇妙なものだった。


「紅い瞳のミコッテ族の少年を探しているんだが、君かい?」


男たちの傍に駆けていって、そうだ、と答えた。

この村にミコッテ族は自分しかいない。

標高の高いこの村には逞しい身体を持ったヒューラン族がほとんどなのだ。

男は粗末な紙の手紙を懐から出し、軽く手を上げてこちらに見せた。

「君のお母さんから頼まれて来たんだ。君はこれから、私たちと共に生活することになった。」

何も言わなかった。

屈強そうなその男の瞳を見つめていた。

吸い込まれそうな黒い瞳をした男だった。

少し恐ろしくなったが、目を逸らさずただ黙って頷いた。

「少し長旅だが、準備はすでに出来ている。このまますぐに出発でもいいが、お母さんに一言お別れを言う時間くらいはあるぞ。どうする?」

いい、と首を横に振った。

別れの挨拶なら既に済ませた。

家のものは全て近所の人に配ってしまった。

持っていくものは、母との思い出だけでいい。

「そうか・・・。なら、すぐに出発だ、夕方には雨が降りそうだ。」

促されるまま、男の手を握りついていく。

差し出された手はひどく硬く、大きく感じた。

男は背が高く、見上げると真上にある太陽が逆光になって黒ずんでみえる。

突き抜けるほど明るい空の色が、目に染みるほど眩しく感じた。

村の出口まで来たところで立ち止まり、男たちはそろってこちらを向いた。

手を握っていた男は屈んでこちらを見た。

こちらの瞳のずっと奥のほうを覗き込むように、真正面から。

小さな傷が多く、少し浅黒い肌をしていた。

どれも古そうな傷だったが、ところどころに真新しい傷も見られた。

なんとなく、不安と恐怖が込み上げた。

「この者たちも共に行く。今日から私たちは家族だ。改めて、君の名前を教えてくれ。」

厳めしい顔つきで男は言った。


一度だけ、村のほうを振り返ってみる。

今まで村の人とはろくに話もしなかった。

"ケモノ"と蔑んでくる奴も少なくなかった。

だからずっと、薪割りや釣りや狩りばかりしてきた。

村の中では、特に何もすることは、なかった。

それでも、なんだか少し寂しい気もした。

自分が出ていく事を、気にも留めずに各々の生活のため、働いている。

いつも通りの風景。

それがいっそう、寂しかった。

心の中で、さようなら、と呟いた。

ありがとう、とは言わなかった。

男に向き直り、できるだけ強い口調で名前を口にした。

「チコ。」









高い山々に囲まれた小さな村。

近づけばその雄大さが際立つほどの連峰。

蒼天は流れ、暖かい風が雲を運ぶ。

木々が揺れ、鳥は歌い、棲み処へ帰る。

遠くで短く空が光った。

じきに雨が来る。

春雷が過ぎればすぐに夏が来る。

連峰の胸に抱かれて、人は生きていく。

どんなに過酷で辛くとも、人として生きていく。

向かうは修羅の地。

ラールガー星導教総本山。

星導山寺院。


齢、七つを数える年だった。


















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プロフィール

リムサの亡霊Chico

Author:リムサの亡霊Chico
FF14のお化け装備(ウェイリングスピリット)の魅力にとりつかれた人。
装備集めやコンテンツ攻略そっちのけで元気にどっかでお化けしてます。
住処はリムサロミンサのエーテライト北にあるベンチ。


職業:メインお化け サブモンク

座右の銘:亡霊の正体見たりやはりChico

将来の夢:お化け装備をミラプリ化実装させること

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